農林水産大臣賞典・第5回黒船賞は、高知競馬場のほか37ヶ所での場外発売を得、ネット上での中継を含めて多数のファンの耳目を集めてゲートインを迎えた。3月18日当日は薄曇から徐々に快晴と変わり、日中の気温も申し分ない春爛漫の一日となった。
外国産馬7頭を含む12等の内訳はJRAから4頭、地方他地区は大井から2頭、笠松から1頭、そして地元高知が5頭というメンバー構成。今年は芝G1馬の参戦(過去キョウエイマーチの3着が最高)はないが、ノボジャック・ノボトゥルーというダートのG1馬2頭の参戦を含め、恐らくJRA馬の平均レートが非常に高い黒船賞史上最強とも言える遠征馬が登録しての1戦だ。
馬場状態は重だが、それまでのレースを見る限りタイム的には稍重位の時計が掛かる馬場。前日からの重発表だから、風もあった当日に表面だけでも回復していた事は推測できる。2R前に行われたJRA500万下交流・龍馬盃が1分29秒8だから2秒半の差を見て勝ち時計は27秒台の前半と予測した。
ちなみにレコードは第2回のテセウスフリーゼで1分26秒0。この時は完全なる不良馬場だが、それでもグレード勝ち馬が順調に出走してくればとんでもない時計で走るものだと感心したものだ。
さてゲート入り。各馬それほどの出遅れはなく、逆に最後の枠入りだったライジングハントが素晴らしいスタートを切っている。最内からマッケンリーダーが手綱をしごいて先頭に立つと、そのライジングハントが2番手に。ノボジャックはどうやらサウスヴィグラスをマークする戦法だったようで、柴田善臣騎手が3番手に控えると、蛯名正義騎手はその直後の4番手を選んだ。更にノボトゥルーが早めにこのグループに取り付いたが、どうやら深めのダートは苦手のようで手応えは決して良くないようだ。地方馬の4頭、スピーディドゥ・ゼンノモトーレの大井2騎にエイシンオニオンタ・エイシンドーサンの笠松・高知の2頭は中団からそれぞれ進んでチャンスを伺うが、結果的には差の離れた(2秒8以上)4着争いまでという成績に終わっている。
さてサウスヴィグラス。600標識辺りでマッケンリーダー・ライジングハントを交わしていくのだが、ノボジャックが接近してくると「馬が勝手に動いていったので…」という勢いに任せてみるみる差が開く。6歳にして何という充実振りだろう。ガーネットS(G3)でブロ-ドアピールの2着に頑張ると、根岸S(G3)で昨年の覇者ノボトゥルー以下を完封して圧勝。距離が長いと心配されたフェブラリーS(G1)でも大崩れせずの6着。元々早い時期から黒船賞が視野に入っていたようで、今回の黒船賞では3キロの斤量差はあったものの何と8馬身差の大勝を見せた。恐らく柴田善臣騎手のコメント通り現在は素晴らしい状態にあって、黒船賞の出来がキープできるなら昨年のノボジャックのような大活躍を見せることも可能となろう。END SWEEP(USA)の産駒は芝でもスピードを見せるが、サウスヴィグラスが6歳でG3を2勝した事で、今後はダート、成長力という分野にも大きく可能性が広がったと言えよう。
勝ち時計は想像をはるかに上回る1分26秒8。タイムでも快勝の内容が裏づけされている。
ノボジャックは59キロを考えれば昨年並みのレースをしたという事になるのだろうが、勝ち馬のパフォーマンスが素晴らしかった分だけ物足りない印象。
しかし考えてみれば初重賞制覇となった第4回の黒船賞から後は群馬記念・北海道スプリントカップ・クラスターカップ・東京盃・JBCスプリントと連勝し、とちぎマロニエカップで敗れるも2着と頑張っていたわけで、今年に入っても絶好調が続くならもう化け物だ。当然疲れもあると考えるべきで、今回の2着で高知競馬場との相性の良さを証明したとも言えるだろう。
ライジングハントはとにかく元気一杯のレース。相手なりに走って条件戦でも2~3着というタイプだから、この日は面目躍如というところか。筆者はレース前夜のパーティでも「ミスワキ産駒で前に行ってしぶといタイプ」と紹介したのだが、正に特徴通りの好走で今回の最高配当(複勝2780円)を叩きだしたのは立派。「地元の期待を一身に背負って」というわけでもなかったこういう活躍馬(12番人気)が突然現れるのは競馬の醍醐味だと思う。
サウスヴィグラスの圧勝がとにかく印象的だった今年の黒船賞。昨年に続いて今後が楽しみなダート短距離界の主役が誕生だ。最後にレースアラカルトを付しておく。
☆関東馬が3勝目…黒船賞の歴代優勝馬は第1回が高知(リバーセキトバ)、昨年のノボジャックが栗東・森秀行厩舎だったが、今回の美浦・高橋祥泰厩舎の優勝でテセウスフリーゼ(新関力厩舎)、ビーマイナカヤマ(高市圭二厩舎)に次いでJRAの関東馬が3勝目となった。
☆1番人気は?…第2回テセウスフリーゼ、第4回ノボジャックに続いて3勝目。ダートグレード競走の浸透に伴って実力比較がしやすくなってきた印象もある。
☆外国産馬は2勝目…昨年のノボジャックに続いて2連勝。今回は12頭中7頭が外国産馬で1・2・3・5・6・7・11着と3着までを独占、猛威を振るっている。
☆タイム…サウスヴィグラスが歴代2番目の好時計での優勝。ちなみに前半の2Fは筆者の手元で23秒9だから昨年より1秒近く遅かった。
☆G1馬は?…第3回のキョウエイマーチ(桜花賞)が3着、第4回のヤマカツスズラン(阪神ジュブナイルフィリーズ)は10着。今年の2頭はノボジャック(JBCスプリント)が2着も、ノボトゥルー(フェブラリーS)が7着と敗れた。
☆ミスターパーフェクト…高知競馬場で初騎乗となった柴田善臣騎手が条件交流・龍馬盃と黒船賞を制して2戦2勝。新人王戦で来場した浦和の木村龍二騎手も2戦2勝で、他では的場均騎手が黒船賞のみの1戦1勝という例がある「ミスターパーフェクト」の仲間入りをしている。

