平成１４年度の高知競馬が開幕しました。当ゴールポスト通信も新年度らしく再出発という形になり、今後は２週間に一本程度の予定で高知競馬に関する話題やトピックスを紹介していきます。実は「です、ます調」の文章が大変苦手でして普段は解説者的な文体が多いのですが、今回は肩の力を抜いてリラックスムードのものにしようと考えて”あえて”挑戦してみました。こう書き出してしまった以上は少なくとも１年間は「です、ます調」で頑張らなければ…。
なおＲｙｏｍａＤｅｒｂｙ宛てに質問などお寄せいただければ、可能なものについてはこの場でお答えいたします。
息抜きに喫茶店に立ち寄った気分でよろしくお付き合いください。
新年度最初の重賞競走・二十四万石賞は皆があぜんとする連勝式トリプル万馬券決着となりました。ジョイフライト自身には何の責任もないのですが、巷間で「距離に不安」が定説になっていた事もこの配当に結びついてしまいました。中西達也騎手や雑賀秀介調教師もレース後の感想がいつもとはちょっと違う感じで、展開がはまった事を勝因に挙げていましたね。ポイントは他にもあって、当日の条件戦でイブキライズアップが１３００ｍを１分２２秒台で圧勝したように、もういつに遡ればいいのか分からない程の好時計決着を生む馬場が、ジョイフライトのスピードを後押ししたようです。黒船賞当日にこの馬場だったらサウスヴィグラスは一体どんな時計で…と想像してしまいます。
ジョイフライトの鞍上で思わずガッツポーズを見せた中西達也騎手が、最近感情を抑えきれずに涙した事。それは黒船賞当日の最終レース入線後。中西騎手と同じく九州の競馬場から高知にやってきた今村賢治騎手が引退前の最後の騎乗をノルディクダンサーで飾った、あのラストランの時です。
今村賢治騎手は昭和４２年、宮崎県都城市生まれ。この土地近辺からは川野勇馬・田中守現調教師や徳留康豊騎手、ＪＲＡの橋口弘次郎調教師ら沢山の競馬関係者が出ています。地元の中学校を卒業後、佐賀競馬場で騎手としてデビューすべく栃木県の地方競馬教養センターに入所。当時の日記には「初めて飛行機に乗った事」や「初めて東京タワーを見た」という無邪気な感想が綴られていたといいます。昭和６１年には高知競馬場へ移籍して、高知県知事賞や南国菊花賞など重賞を７勝。そのうちひとつがノルディクダンサーで制したトレノ賞。その馬で最後の騎乗を勝つのですから奇妙な縁もあるものです。本人によるとその最後の騎乗のパドックでノルディクダンサーが「俺に任しておけ」と大きくうなずいて見せたように思えたそうです。家業を継ぐために故郷へ戻る、それはまた青春を過ごした高知を離れる事を意味します。再三のケガを乗り越えての騎手生活は苦しい思い出も多かったでしょうが、しかし引退式では応援してくれたファンからの持ちきれないほどの花束に涙ぐみ、見事に最終競走を勝った後のウイニングランでは涙がとめどなく溢れてゴーグルを外す事が出来なかったという恵まれたラストランで締めくくる事が出来ました。
ウイニングランを終え、検量に戻った今村騎手を関係者の拍手が出迎えます。
新しい生活の門出を祝福するかのような拍手の音の間を抜けて、中西達也騎手が今村騎手に抱きついて泣きじゃくりました。年齢でも兄貴分で同じ九州からの移籍組・今村騎手の引退に、抑えていた感情が溢れ出した瞬間。いや中西騎手だけではありません、北野真弘騎手は椅子に座り込んだまま顔を伏せて嗚咽を堪えるのが精一杯。宮川浩一騎手は可愛がってくれた先輩の花道に言葉もないようでした。皆が共に戦った仲間の若くしての引退に寂しい想いをしているところで、あの感動のラストラン…。涙を堪える事など出来なかったようです。
そして所属厩舎の宗石大調教師。普段は感情を表に出すことなど少ないタイプに見えるのですが、一言声を掛けようと検量に近づいたものの、その輪の中に加われば自分も大泣きしてしまいそうで、中には入れなかったそうです。
こんなに高知競馬場の検量室が感動で満ち溢れたのは…、そうリバーセキトバが第１回黒船賞を優勝した４年前以来の事。その時も今村賢治騎手はノルディクダンサーの鞍上にいました。スタートで躓いて追走に手一杯の最下位入線だったのですが、リバーセキトバの鞍上でガッツポーズを見せてゴールする北野真弘騎手を、自らは４コーナーから直線に向かう辺りで見ながら今村騎手もガッツポーズ（！）しそうになったと述懐していました。
改めて「賢ちゃん」、お疲れ様。
次の生活でもみんなに愛される存在であってください。
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橋口浩二
高知競馬場場内実況放送担当
競馬の実況とＦＭ局のランキング番組を担当し、「カタカナ読み」に特化しつつあるフリーアナウンサー
最近は新兵器の双眼鏡・スワロフスキーを手に入れて競馬実況のレベルアップに挑戦中（←頑張れ）
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